Chemistry Labs

核化学・放射化学

新元素の合成

加速器ビームと放射性アクチノイド標的を用い、重イオン融合蒸発反応によって周期表の境界を安定の島へと押し広げる物理と化学。

直観直観:巨大な斥力に抗して原子核を融合させる

すべての原子核は正の電荷を帯びている。短距離の強い核力によって結合するほど2つの重い核を接近させるには、巨大なクーロン障壁を乗り越えなければならない。融合したとしても、生じた複合核は激しく励起されており、ほぼ確実に自発核分裂で崩壊してしまう。中性子を数個蒸発させて生き残り、たった1個の超重原子として検出されるのは極めて稀な事象である。

熱い融合(48Ca + 249Cf → 3n蒸発を経て 294Og、さらにα崩壊で 282Cn に至り自発核分裂)と冷たい融合(70Zn + 208Pb → 1n蒸発を経て 277Cn、257No に至る連鎖)を比較する対話型スキーム。

学校基礎レベル:超ウラン元素と核融合蒸発反応

定義: 複合核と融合蒸発反応

加速された入射核が標的核と完全に合体すると、すべての質量・電荷・励起エネルギーを共有する過渡的な複合核が形成される。核分裂を起こさずに基底状態へ達するため、励起核は1個以上の中性子を蒸発させ(xnチャネル)、過剰なエネルギーをガンマ線として放出する。

ネプツニウム(Z=93)やプルトニウム(Z=94)に続き、フェルミウム(Z=100)までの元素は原子炉内での多重中性子捕獲や熱核爆発の残骸(1952年のアイビー・マイク実験によるアインスタイニウムとフェルミウムの発見など)から得られた。Z=100 を超えると半減期が短すぎて標的を蓄積できないため、加速器による重イオン融合反応(48Ca や 70Zn ビームを 208Pb、209Bi、超ウランアクチノイド標的に照射)が不可欠となる。

X2048X220248Ca+X98249X2982249Cf→[X118297X21182297OgX∗]→X118294X21182294Og+3 X01X2021n\ce{^{48}_{20}Ca + ^{249}_{98}Cf -> [^{297}_{118}Og^*] -> ^{294}_{118}Og + 3 ^1_0n}
超ウラン元素および超重元素合成の主要な歩み
元素Z年反応・手法研究機関・研究グループ
ネプツニウム (Np)931940熱中性子捕獲:X238X22238U(n,γ)→βX−X239X22239Np\ce{^{238}U(n,\gamma) ->[\beta^-] ^{239}Np}バークレー60インチ加速器(マクミランとエイベルソン)
プルトニウム (Pu)941940–1941重陽子ビーム照射:X238X22238U+X2X222H→X238X22238Np+2 n\ce{^{238}U + ^2H -> ^{238}Np + 2n}カリフォルニア大学バークレー校(シーボーグら)
ボーリウム〜コペルニシウム107–1121981–1996X208X22208Pb\ce{^{208}Pb} / X209X22209Bi\ce{^{209}Bi} に対する冷たい融合(1nチャネル)GSIダルムシュタット・SHIP分離器(ホフマンら)
ニホニウム (Nh)1132004–2012冷たい融合:X3070X230270Zn+X83209X2832209Bi→X113278X21132278Nh+n\ce{^{70}_{30}Zn + ^{209}_{83}Bi -> ^{278}_{113}Nh + n}理化学研究所仁科センター・GARIS(森田浩介ら)
フレロビウム〜オガネソン114–1181999–2010熱い融合:アクチノイド標的に対する X48X2248Ca\ce{^{48}Ca} 照射(3n–4n)ドゥブナFLNR(DGFRS)+ LLNL + ORNL(オガネシアンら)

例: 遺伝的崩壊連鎖による単一原子の同定

重イオン実験では生成率が極めて低いため、たった1個の原子を確実に同定しなければならない。反跳分離器と位置有感検出器は、元素118が生成したことをどのように証明するのか。

解答

反跳分離器が未反応のビームイオンを数マイクロ秒以内に除去し、融合生成物をシリコンストリップ検出器に打ち込む。検出器は正確なピクセル位置と注入時刻を記録する。同一ピクセル内で連続するα崩壊が観測される:294Og が α線(11.65 MeV)を放出して 290Lv となり、さらに α崩壊(10.84 MeV)で 286Fl、そして 282Cn を経て自発核分裂で終了する。位置の相関と寿命が既知の子孫核と厳密に一致するため、この遺伝的連鎖により疑いなく同定される。

大学大学レベル:反応動力学・クーロン障壁・励起エネルギー

重イオン融合では、質量 A1・電荷 Z1 の入射核が標的核(A2, Z2)に衝突する。静電ポテンシャルは接触半径 R = r0 (A1^(1/3) + A2^(1/3)) で最大に達する。冷たい融合は重い入射核(50Ti, 54Cr, 58Fe, 62Ni, 64Ni, 70Zn)と球形閉殻標的(208Pb, 209Bi)を組み合わせ、励起エネルギー E 〜 10〜15 MeV の複合核を作り1〜2個の中性子を蒸発させる。熱い融合は二重魔法数核 48Ca ビームを変形したアクチノイド標的(238U, 242Pu, 243Am, 245Cm, 248Cm, 249Bk, 249Cf)に照射し、E 〜 30〜35 MeV で3nまたは4nチャネルを利用する。代表的な反跳分離器には GSI の SHIP や TASCA、理研の GARIS、ドゥブナの DGFRS がある。

VC≈Z1Z2e24πε0 r0(A11/3+A21/3)≈1.44 Z1Z2r0(A11/3+A21/3)  MeVV_C \approx \frac{Z_1 Z_2 e^2}{4\pi\varepsilon_0 \, r_0 (A_1^{1/3} + A_2^{1/3})} \approx \frac{1.44 \, Z_1 Z_2}{r_0 (A_1^{1/3} + A_2^{1/3})} \;\mathrm{MeV}

例: 48Ca + 249Cf 反応におけるクーロン障壁と重心系運動学

r0 = 1.30 fm を用いて、48Ca(Z1 = 20, A1 = 48)と 249Cf(Z2 = 98, A2 = 249)の接触クーロン障壁を見積もりなさい。重心系エネルギーが E_cm = 252 MeV、反応の Q値が -217 MeV のとき、複合核 297Og の励起エネルギー E を計算しなさい。

解答

まず半径項を計算する:48^(1/3) = 3.634、249^(1/3) = 6.292 で和は 9.926。r0 = 1.30 fm のとき分母は 1.30 9.926 = 12.90 fm となる。クーロン障壁は V_C = 1.44 20 98 / 12.90 = 218.7 MeV である。複合核の励起エネルギーは E = E_cm + Q = 252 + (-217) = 35 MeV となる。この約 35 MeV は、中性子3個の蒸発(各結合エネルギー約 7 MeV + 運動エネルギー約 2〜3 MeV)とそれに続くガンマ線放出によって冷却され、294Og が生成する。

上級発展レベル:微視的殻補正と安定の島

古典的な液滴模型によれば、核分裂性パラメータ x = (Z^2 / A) / (Z^2 / A)_crit から、Z >= 104 の原子核は核分裂障壁がゼロ(B_fiss = 0)となり、10^-22 秒以内に瞬時に自発核分裂するはずである。超重核が存在できるのは、純粋に微視的な量子殻補正 delta U_shell のおかげである。単一粒子準位の離散的構造がポテンシャルの窪みを作り出し、5〜8 MeV の核分裂障壁を回復させる。理論は、球形中性子閉殻 N = 184 と陽子閉殻 Z = 114、120、または 126 を中心とする「安定の島」の存在を予測している。

Bfiss(Z,N)=Bmacro(Z,N)+δUshell(Z,N)+δPpair(Z,N)B_{\mathrm{fiss}}(Z, N) = B_{\mathrm{macro}}(Z, N) + \delta U_{\mathrm{shell}}(Z, N) + \delta P_{\mathrm{pair}}(Z, N)

研究研究の最前線:チタン50ビームによる119番・120番元素への挑戦

2025年現在、日本の理化学研究所、ロシア・ドゥブナFLNRの超重元素ファクトリー(SHE Factory)、ドイツGSIにおいて、50Ti + 249Bk → 299(119) や 50Ti + 249Cf → 299(120)、さらに 54Cr + 248Cm 反応を目指した国際的な実験が進行中である。これらの非対称反応の断面積は数十〜数百フェムトバーンにまで低下し、分離器の透過効率、回転標的の冷却技術、検出器システムの限界が試されている。

参考文献

  • Super-heavy element research · Y. T. Oganessian, V. K. Utyonkov, 2015
  • Experiment on the Synthesis of Element 113 in the Reaction 209Bi(70Zn,n)278113 · K. Morita et al., 2004
  • Toward the Discovery of New Elements: Production of Livermorium (Z=116) with 50Ti · J. M. Gates et al., 2024