核化学・放射化学
核分裂と熱核融合
結合エネルギー曲線、中性子誘起核分裂連鎖、プラズマ中のクーロン障壁、核融合のローソン条件を物理とエネルギーの観点から解明する。
直観直観:結合エネルギーの頂とエネルギーを解放する二つの道
横軸に質量数、縦軸に1核子あたりの結合エネルギーをとると、自然界は非対称な山を描き出す。結合エネルギーは水素からヘリウムへと急激に上昇し、鉄56やニッケル62付近の中間質量核で約 8.8 MeV/核子 の頂点に達した後、ウランなどの重いアクチノイドに向かって約 7.6 MeV/核子 へと緩やかに下降する。頂点に位置する原子核ほど核子あたり最も強固に結合しているため、この鉄の頂に向かう核変換は莫大な正味のエネルギーを解放する。頂点に至る幾何学的経路は正反対の2通り存在する。過大で不安定な重核を2つの破片に分割する(核分裂)か、極めて軽い2つの核を1つに融合させる(核融合)かである。
しかし自然はこの2つの反応に対して全く対照的な物理的障壁を課している。核分裂は電荷を持たない中性子によって誘起できる。電気的に中性な熱中性子は、クーロン斥力を一切感じることなくウラン原子核へと軽々と侵入する。対照的に、核融合は正の電荷を持つ2つの原子核を、猛烈なクーロン静電斥力に抗してフェムトメートルの核力到達距離まで無理やり接近させなければならない。このクーロン障壁を突破するために、熱核融合は1億度を超える恒星中心並みの超高温を必要とし、燃料を完全電離プラズマへと変化させて量子トンネル効果による融合を引き起こす。
分子動力学プラズマシミュレーション。重陽子(青)と三重陽子(緑)が熱速度で衝突する。相対温度スライダーを上げるか相対障壁スライダーを下げると、トンネル衝突によって ⁴He と高速中性子(赤)を生じる反応頻度が増加する。注:スライダーは定性的な相対値を表している。核エネルギー過程の模式図。熱中性子による ²³⁵U の核分裂(¹⁴¹Ba と ⁹²Kr に分裂し約200 MeVを放出、モード0)、k > 1 における増倍連鎖反応ツリー(モード1)、および2体 D–T 反応におけるエネルギー分配(モード2)を切り替えて観察できる。学校学校教育の要点:質量欠損・連鎖反応・反応熱量
定義: 結合エネルギー・質量欠損・核分裂・核融合
結合した原子核の静止質量は、それを構成する自由な陽子と中性子の質量の総和よりも厳密に小さい。この差を質量欠損 Δm=[Zmp+Nmn]−m核 と呼ぶ。アインシュタインの質量エネルギー等価性 E=Δmc2(1 u≈931.494 MeV)により、この欠損質量が核子を結びつける結合エネルギーに相当する。核分裂とは重いアクチノイド原子核が2つの中質量核へと分裂し、中性子の放出とともに莫大なエネルギーを解放する反応である。核融合とは軽い核種どうしが融合してより重い原子核を形成し、単位質量あたり極めて大きなエネルギーを解放する反応である。
核分裂と核融合の包括的比較| 比較項目 | 核分裂(²³⁵U) | 核融合(D–T) |
|---|
| 主要燃料源 | ウラン鉱石(天然0.72%の²³⁵Uを3〜5%に濃縮) | 海水中の重水素およびリチウムから増殖する三重水素 |
| 反応1回あたりのエネルギー | 核分裂1回あたり約200 MeV | D–T反応1回あたり17.59 MeV |
| 単位質量あたりエネルギー | 燃料1 kgあたり約 8.2×10¹³ J (82 TJ/kg) | 燃料1 kgあたり約 3.4×10¹⁴ J (340 TJ/kg) |
| 必要な反応条件 | 室温程度の熱中性子照射(0.025 eV) | 1億〜2億Kの超高温プラズマ(10〜20 keV) |
| 放射性廃棄物の特徴 | 長寿命核分裂生成物(¹³⁷Cs・⁹⁰Sr)および超ウラン元素 | 長寿命核分裂片なし(中性子による構造材放射化とトリチウム) |
| 臨界制御および安全性 | 遅発中性子による厳密制御と停止後崩壊熱冷却が不可欠 | 臨界暴走の原理的危険なし(外乱でプラズマは即時自然消滅) |
ΔE=Δm⋅c2,X01X2021n+X92235X2922235UX92236X2922236UX∗X56141X2562141Ba+X3692X236292Kr+3X01X2021n+200 MeV,X12X2122H+X13X2123HX24X2224He(3.52 MeV)+X01X2021n(14.07 MeV)+17.59 MeV 低エネルギーの熱中性子(En≈0.025 eV)が X235X22235U に捕獲されると、励起状態の複合核 X236X22236UX∗ が形成される。励起エネルギーは液滴模型的な集団振動を誘発し、くびれを生じて2つの非対称な分裂片へと断裂する(典型的には質量数 A≈90〜100 の軽核片と A≈135〜145 の重核片)。1回の核分裂あたり平均して約 200 MeV のエネルギーが解放される。その内訳は、分裂片の反跳運動エネルギーが約 168 MeV、即発中性子が約 5 MeV、即発γ線が約 7 MeV であり、残りの約 20 MeV は放射性核分裂生成物の後続β・γ崩壊および反ニュートリノ(回収不能な約 12 MeV)によって持ち去られる。放出された即発中性子は有効増倍率 keff に支配される連鎖反応を維持する。
例: ウラン235完全核分裂時の比エネルギー計算
純粋なウラン235(X235X22235U、モル質量 M≈235.04 g/mol)1.0 kg が完全に核分裂したときに解放される総エネルギーを計算しなさい(1分裂あたり平均 200 MeV、換算係数 1 eV=1.6022×10−19 J とする)。得られたエネルギーを工業用標準石炭の燃焼熱(約 30 MJ/kg)と比較しなさい。
解答
1.0 kg 中の原子核数:N=235.04 g/mol1000 g×6.022×1023 mol−1≈2.562×1024 個。
1分裂あたりのエネルギー:E1=200×106 eV×1.6022×10−19 J/eV≈3.204×10−11 J。
総エネルギー:Etotal=2.562×1024×3.204×10−11 J≈8.21×1013 J≈82.1 TJ。
等価石炭質量:mcoal=3.0×107 J/kg8.21×1013 J≈2.74×106 kg≈2740 トン。わずか 1 kg のウラン235が約2740トンもの石炭に匹敵するエネルギーを産出する。
大学大学:原子炉動特性・遅発中性子・ローソン条件
n⋅T⋅τE≥3×1021 keV⋅s⋅m−3,En=Q⋅mα+mnmα≈54Q=14.07 MeV 核分裂炉の安全な運転制御は、ひとえに遅発中性子の存在に依存している。即発中性子は核分裂後 10−14 秒 以内に放出されるため、仮に即発中性子のみで臨界に達した場合(kprompt≥1)、中性子数はミリ秒単位で倍増し機械的な制御棒の挿入速度を凌駕してしまう。幸いにも、核分裂生成物の前駆核(X87X2287Br→X87X2287KrX∗→X86X2286Kr+n など)の後続β⁻崩壊に伴い、約 βeff≈0.0065(0.65%)の中性子が数秒から数分遅れて放出される。遅発臨界状態(keff=1.0000 かつ kprompt<1)で運転することにより炉周期は数十秒まで引き延ばされ、安定した機械的フィードバック制御が可能となる。一方核融合研究では、自立的な熱核点火を達成するためにα粒子の自己加熱がプラズマの全熱損失(制動放射光および熱伝導)を上回る必要があり、粒子密度 n、温度 T、エネルギー閉じ込め時間 τE を組み合わせたローソンの三重積 nTτE によって点火条件が規定される。
例: 重水素・三重水素核融合における2体運動エネルギー分配
核融合反応 X12X2122H+X13X2123HX24X2224He+X01X2021n において放出される総エネルギーは Q=17.59 MeV である。反応前の重陽子と三重陽子の運動エネルギーが Q に比べて無視できると仮定し、重心系における運動量保存則を適用して放出されるα粒子(mα≈4 u)と中性子(mn≈1 u)のそれぞれの運動エネルギーを求めなさい。
解答
運動量保存則:pα=pn⟹mαvα=mnvn。
運動エネルギー比:EαEn=pα2/(2mα)pn2/(2mn)=mnmα≈14=4。
全エネルギー収支:Eα+En=Eα+4Eα=5Eα=Q=17.59 MeV。
α粒子のエネルギー:Eα=51Q=517.59≈3.52 MeV(磁場に捕捉されプラズマの自己加熱を担う)。
中性子のエネルギー:En=54Q=54×17.59≈14.07 MeV(磁場を抜けてブランケットのリチウムでトリチウムを増殖する)。
上級高度な物理的考察:ガモフのトンネル効果・ターゲット利得・磁場閉じ込め
古典電磁気学によれば、2つの水素同位体原子核が相互のクーロン斥力障壁を古典的に乗り越えるには約 400 keV の運動エネルギー(40億ケルビンを超える超高温環境)が必要とされる。しかし現実には、ガモフ因子 P(E)∝exp[−2πη]=exp[−παZ1Z22μc2/E] で記述される量子力学的トンネル効果とマクスウェル・ボルツマン熱分布の積畳によって「ガモフの窓」が形成される。このトンネル効果により、核融合反応は現実的なプラズマ温度である 10〜20 keV(約1億〜2億K)において十分な確率で生起する。現在、2大工学的パラダイムが受控核融合を目指している。トカマクやヘリカル装置の螺旋磁場で低密度プラズマ(n∼1020 m−3)を数秒間閉じ込める磁場閉じ込め核融合(MCF)と、メガジュール級レーザーで極低温燃料カプセルを超高密度(n∼1031 m−3)にピコ秒単位で爆縮圧縮する慣性閉じ込め核融合(ICF)である。2022年12月(2024年に Abu-Shawareb らにより論文発表)、米国立点火施設(NIF)はターゲット利得1超過を達成した(2.05 MJ のレーザー入力に対し 3.15 MJ の核融合出力を得て Qtarget≈1.54 を記録)。これにより実験室規模での受控核融合の科学的成立性が実証された。
参考文献
- Disintegration of Uranium by Neutrons: a New Type of Nuclear Reaction · L. Meitner, O. R. Frisch, 1939
- Über den Nachweis und das Verhalten der bei der Bestrahlung des Urans mittels Neutronen entstehenden Erdalkalimetalle · O. Hahn, F. Strassmann, 1939
- Achievement of Target Gain Larger than Unity in an Inertial Fusion Experiment · H. Abu-Shawareb et al., 2024