核化学・放射化学
核燃料の処理と再処理
照射済核燃料の化学的分離によりウランとプルトニウムを回収し、長寿命マイナーアクチノイドを単離して高レベル放射性廃棄物をガラス固化する原理。
直観直観:核燃料サイクルを閉じる
商業用軽水炉で数年間の発電を終えて取り出された使用済核燃料集合体は、決してエネルギーを使い果たした搾り殻ではない。元の重金属原子の95%以上が未反応のウランとして残り、中性子捕獲により生じた約1%のプルトニウム、約4%の極めて強い放射能をもつ核分裂生成物、そして微量のマイナーアクチノイドが含まれる。ワンススルー方式の開式サイクルでは、この集合体全体を廃棄物として地層処分場へ埋設するため、膨大な潜在エネルギーを封殺すると同時に10万年以上の隔離を要する。化学的再処理は使用済燃料を「人工鉱石」として捉え、再利用可能な核分裂性物質を抽出回収し、放射性毒性の寿命を劇的に短縮する。
3つの燃料サイクルを比較:全アクチノイドを直接処分するワンススルー、UとPuを回収してMOX燃料へ再処理し残渣を高レベル廃棄物としてガラス固化するPUREX、マイナーアクチノイド(Am, Cm)を高度分離して高速炉や加速器駆動未臨界炉(ADS)で核変換する先進サイクル。青はウラン、赤はプルトニウム/アクチノイド、茶色は廃棄物を表す。学校学校レベル:使用済燃料の組成と PUREX プロセス
定義: 軽水炉使用済燃料の組成と放射能毒性の時間変化
燃焼度 50 GWd/tHM(重金属1トンあたりギガワット日)で取り出された標準的な軽水炉使用済燃料は、約 95% のウラン(主成分の 238U と残存 235U≈0.8-1.2%)、約 1% のプルトニウム(核分裂性の 239Pu,241Pu および 240Pu,238Pu)、約 4% の核分裂生成物(137Cs,90Sr,99Tc、ランタノイドなど)、および約 0.1% のマイナーアクチノイド(Np,Am,Cm)から構成される。最初の 300 年間 は核分裂生成物(137Cs と 90Sr)が発熱量と放射能毒性を支配し、300 年 以降は超ウラン元素アクチノイドが数十万年にわたり潜在毒性を支配する。
商業的再処理の中核を担うのは PUREX(プルトニウム・ウラン抽出)法である。前処理工程では、燃料被覆管集合体が 3-5 cm の小片に剪断され、沸騰する 3-6 M の硝酸(HNOX3)で溶解される。不溶性のジルカロイ被覆管ハル(殻)は分離除去される。ウランはウラニルイオン [UOX2X2+]、プルトニウムは PuX4+ として溶解し、揮発性ガス(X85X2285Kr,X129X22129I,X14X2214C,X3X223H)は排ガス洗浄塔で捕集される。白金族不溶性残渣(Ru, Rh, Pd, Mo, Tc などの微粒子)は高速遠心清澄機で除去される。清澄化された硝酸溶液は向流多段抽出器へ送られ、不活性脂肪族炭化水素(n-ドデカンなど)で希釈された 30% v/v のリン酸トリ-n-ブチル(TBP)有機溶媒と接触する。
主要な核燃料再処理技術の比較| 技術方式 | 抽出媒体 | 分離される成分 | 核不拡散抵抗性 | 廃棄物固化体 |
|---|
| ワンススルー(開式) | なし(直接貯蔵) | 分離なし(集合体全体) | 燃料集合体自体の高放射線遮蔽 | 直接深地層処分(キャスク) |
| PUREX(工業標準) | 30% TBP/ドデカン | 精製U、精製Pu、高レベル廃液 | 純粋Puが単離(IAEA保障措置必須) | ホウケイ酸ガラス固化体 |
| COEX / UREX+ | 有機リン系+アミン溶媒 | 精製U、U+Pu共抽出流、廃液 | 純粋Pu単離流が存在しない(高抵抗) | ホウケイ酸ガラス固化体 |
| DIAMEX-SANEX | マロンアミド+多窒素配位子 | An(III) と Ln(III) の相互分離 | アクチノイドを核変換へ移行 | 熱負荷期間が300年に短縮されたガラス |
| 乾式再処理(溶融塩電解) | 溶融 LiCl-KCl 共晶塩(500 ℃) | 固体陰極U、液体Cd陰極U+全超ウラン | Puがマイナーアクチノイドと常に共存 | ソーダライトセラミック+金属インゴット |
大学大学:抽出平衡・U/Pu 分配・溶媒劣化
PUREX法における液液溶媒抽出は、金属硝酸塩とリン酸トリ-n-ブチル(TBP)との間に形成される中性で脂溶性の溶媒和錯体に依存している。分配比 DM=[M]org/[M]aq は抽出効率を決定づける。硝酸濃度が 3-4 M の強酸性下では、6価のウラニルイオン UOX2X2+ および4価のプルトニウムイオン PuX4+ はTBPと強く結合し、分配比 D>10 となって有機相へ速やかに抽出される。これに対し、3価のランタノイド(LnX3+)、3価のマイナーアクチノイド(AmX3+,CmX3+)、および主要な核分裂生成物である X137X22137CsX+ や X90X2290SrX2+ は D<0.001 にとどまり、水相ラフィネート(高レベル放射性廃液)側に定量的に残留する。
UOX2X2++2NOX3X−+2TBPˉUO2(NO3)2⋅2TBPˉ PuX4++4NOX3X−+2TBPˉPu(NO3)4⋅2TBPˉ TBP相へ共抽出されたウランとプルトニウムは、後続工程で別々の製品流へと分配されなければならない。分配抽出器において、ヒドラジンで亜硝酸を捕捉・安定化させた硝酸ウラン(IV)(UX4+)や硝酸ヒドロキシルアミン(NHX3OHX+ NOX3X−)などの還元剤を含む水溶液を接触させ、プルトニウムを選択的に4価から3価へと還元する:2PuX4++UX4++2HX2O2PuX3++UOX2X2++4HX+。3価のプルトニウムはTBPへの分配比が極めて低いため(DPu(III)≈0.01)、水相へと定量的に逆抽出される。一方、6価のウラニルイオンは還元されずに有機相にとどまる。続く抽出塔において、希薄な硝酸(約 0.01 M HNOX3)を用いることでウランの分配比を0.1以下に低下させ、ウランを有機相から水相へ逆抽出して回収する。
funextracted=En+1−1E−1whereE=D⋅VaqVorg 例: 向流溶媒抽出におけるプルトニウム回収率の計算
燃焼度 50 GWd/tHM で取り出された重金属 1.00 tHM のPWR使用済燃料集合体が再処理される。分析の結果、ウラン 935 kg およびプルトニウム 11.0 kg が含まれていた。多段向流抽出器において、水相供給液と 30% TBP 有機溶媒が等体積流量比(Vorg/Vaq=1.0)で供給されている。運転硝酸濃度下における PuX4+ の分配比は D=5.0、したがって抽出係数は E=D×1.0=5.0 である。クレムサー(Kremser)方程式を用いて、理論段数 n=3 段の向流抽出後に水相ラフィネート中に残留する未抽出プルトニウムの理論的割合(%)を求め、この燃料バッチから回収されるプルトニウムの質量(kg)を算出しなさい。
解答
純溶媒供給時のクレムサー式を適用する:funextracted=En+1−1E−1。E=5.0、n=3 のとき、分母は En+1−1=5.04−1=625−1=624、分子は E−1=5.0−1=4.0。したがって funextracted=6244.0≈0.00641=0.641%。抽出回収率は 1−0.00641=0.99359=99.36% である。投入された 11.0 kg のプルトニウムに対し、回収質量は mrecovered=11.0 kg×0.99359≈10.93 kg の Pu となる。未抽出の約 0.07 kg は高レベル廃液中へ移行する。
上級発展:マイナーアクチノイド分離・乾式再処理・ガラス固化
高度湿式再処理では、PUREX廃液中のマイナーアクチノイド(AmX3+,CmX3+)と3価ランタノイド(LnX3+)の相互分離が重要課題となる。ランタノイドは中性子吸収断面積が極めて大きく、これを高度に除去しない限りアクチノイドの核変換は達成できない。DIAMEXプロセスでは、完全焼却可能で二次固体廃棄物を生じない「CHON原則」に合致したマロンアミド系抽出剤(DMDOHEMA等)を用いて両者を共抽出する。続くSANEXプロセスでは、ソフトな窒素供与体をもつ複素環配位子(BTPや CyMe4-BTBP)が用いられる。ランタノイドの局在化した4f軌道に対し、アクチノイドの5f軌道が示すわずかな空間的広がりと共有結合性の違いを利用し、ソフトな窒素原子がアクチノイドに優先的に配位することで、分離係数 βAn/Ln>100 という優れた選択的分離を実現する。
乾式再処理(パイロプロセッシング)は、硝酸や有機溶媒を一切使わず、高温の溶融無機塩(450-500∘C の LiCl−KCl 共晶塩)を電解質に用いる。金属燃料または還元された酸化物燃料を電解精製装置のアノードバスケットに装荷して通電すると、ウランが固体鉄陰極上に高純度で電着析出し、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムは液体カドミウムまたはビスマス陰極へと共析出する。この電気化学的挙動により純粋なプルトニウムの単離が原理的に不可能なため、極めて高い核不拡散抵抗性を有し、ナトリウム冷却高速炉燃料サイクルと直結する。一方、湿式法の高レベル廃液は乾燥・仮焼酸化物とホウケイ酸ガラスフリットを混合し、高周波誘導加熱炉で約 1150∘C で溶融され、堅牢なキャニスター内にガラス固化体として封じ込められる。
研究研究とフロンティア:閉じた燃料サイクル・群分離・核不拡散
参考文献
- Advanced Separation Techniques for Nuclear Fuel Reprocessing and Radioactive Waste Treatment · K. L. Nash & G. J. Lumetta (eds.), 2011
- Reprocessing and Recycling of Spent Nuclear Fuel · R. J. Taylor (ed.), 2015
- Radioactive waste partitioning and transmutation within advanced fuel cycles: Achievements and challenges · M. Salvatores & G. Palmiotti, 2011