無機化学
錯体の磁性と色
不対d電子は磁気モーメントを生み、電子遷移は特定波長を吸収して錯体に固有の色を与える。両方の性質が配位子場電子構造を示す。
直観直観:磁性はスピンを数え、色はエネルギー差を映す
不対電子は小さな磁気モーメントのように振る舞う。光子は許容遷移に合うエネルギーで電子を準位間励起し、白色光から失われた波長の補色が観察色となる。
学校学校段階:常磁性イオンと反磁性イオン
定義: 常磁性
不対電子をもつ物質は常磁性で磁場に引き寄せられる。全スピンが対をなす閉殻物質は反磁性で、弱く反発される。
スピンのみのモーメントμsoは不対電子数nとボーア磁子μBを用いる。軌道寄与とスピン軌道相互作用を無視するため、第一遷移系列の多くには有用な近似だが万能な厳密値ではない。
| 不対電子数n | μso / μB | 代表例 |
|---|---|---|
| 0 | 0 | d⁰・d¹⁰ |
| 1 | 1.73 | 低スピンd⁵ |
| 5 | 5.92 | 高スピンd⁵ |
例: スピンのみのモーメントを見積もる
高スピン八面体Fe³⁺はd⁵である。μsoを見積もれ。
解答
d電子5個はすべて不対なのでn=5、μso=√[5(5+2)]=√35=5.92 μB。
大学大学:吸収と選択則
d–d吸収のエネルギーは概ねΔE=hc/λ。反転中心をもつ八面体錯体ではLaporte禁制のため弱いが、振電相互作用で禁制が緩和される。反転中心のない四面体錯体ではd–d帯が比較的強い。
配位子→金属または金属→配位子の電荷移動帯は、d–d帯よりはるかに強いことがある。鮮やかな色はd–d遷移確率が大きいことを意味せず、淡色錯体も常磁性でありうる。
例: 可視光子のエネルギー
500 nmで吸収される光子のモル当たりエネルギーを求めよ。
解答
1光子あたりE=hc/λを用い、アボガドロ定数を掛けるとNAhc/λ ≈ 239 kJ mol⁻¹。多くの配位子場分裂と同程度の尺度である。
上級磁気モーメントとスペクトルから電子構造へ
磁化率は温度依存性をもつ。Curie型常磁性体は概ねχM=C/Tに従い、ずれは交換相互作用、ゼロ磁場分裂、スピンクロスオーバー、軌道寄与を示しうる。実測値では配位子・内殻の反磁性補正が必要である。
dⁿイオンでは項記号とTanabe–Sugano図が複数遷移と場強度によるエネルギー変化を予測する。スペクトル帰属は色だけでなく酸化数、構造、スピン状態、選択則で検証する。
研究研究段階:スピンクロスオーバー・分子磁性・光物理
参考文献
- Ligand Field Theory and Its Applications · B. N. Figgis, M. A. Hitchman, 2000
- On the absorption spectra of complex ions · Y. Tanabe, S. Sugano, 1954