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無機化学

結晶場理論と配位子場理論

同じ金属イオンを含む錯体でも、色・磁気モーメント・好む形が異なるのはなぜか。周囲の配位子が金属d軌道のエネルギーを分裂させる。

直観直観:配位子がd軌道の五重縮退を解く

孤立金属イオンの周囲には同じエネルギーの5つの軌道がある。特定方向から配位子が近づくと、d電子密度は一様でない反発を受け、配位子を向く軌道ほど高エネルギーになる。

八面体・四面体を切り替え、分裂幅とd電子配置を比べよう。

学校学校段階:代表的な二つの分裂パターン

定義: 結晶場分裂エネルギー

八面体錯体では6配位子が座標軸上にあり、d軌道は低いt₂g(dxy, dxz, dyz)と高いeg(dz², dx²−y²)に分かれる。その間隔がΔoである。

Δo=E(eg)−E(t2g),E(t2g)=−25Δo,E(eg)=+35Δo\Delta_o = E(e_g)-E(t_{2g}),\qquad E(t_{2g})=-\frac{2}{5}\Delta_o,\quad E(e_g)=+\frac{3}{5}\Delta_o

四面体配位では座標軸上に配位子がないため順序が逆転し、eが低くt₂が高い。同じ配位子ならΔtは通常Δoより小さく、しばしばΔt ≈ 4Δo/9と近似する。

理想的なd準位分裂
配位構造低い準位高い準位
八面体t₂g(3軌道)eg(2軌道)
四面体e(2軌道)t₂(3軌道)

例: 八面体高スピンd⁶

[Fe(H₂O)₆]²⁺ではFe²⁺はd⁶で、水は弱い配位子場である。フント則に従って八面体準位を埋めよ。

解答

t2g4eg2t_{2g}^{4}e_g^{2}となり、不対電子は4個(S = 2)。t₂g内で対を作るよりΔoを越えて昇位する方が有利なため高スピンとなる。

Δo=10Dq\Delta_o = 10Dq

大学大学:配位子の性質・対形成・構造

多くの金属イオンで経験的な分光化学系列は I⁻ < Br⁻ < Cl⁻ < F⁻ < OH⁻ < H₂O < NH₃ < en < CN⁻ ≈ CO となる。酸化数、金属の周期、共有結合性、構造もΔに影響し、絶対的な普遍尺度ではない。

high spin if Δo<P;low spin if Δo>P\text{high spin if }\Delta_o < P;\qquad \text{low spin if }\Delta_o > P

Pは同一軌道に2電子を置くコストを含む対形成エネルギーである。八面体d⁴–d⁷ではΔoとPの競合が高・低スピンを決めるが、d⁰・d¹⁰などでは選択はない。

定義: 結晶場安定化エネルギー(CFSE)

CFSEは分裂前のd準位重心に対する電子エネルギーの和である。八面体ではt₂g電子1個あたり−0.4Δo、eg電子1個あたり+0.6Δoで、配置比較では対形成項を別に加える。

例: 二つのd⁶配置を比較

共通の基準を無視し、高スピン t2g4eg2t_{2g}^{4}e_g^{2} と低スピン t2g6t_{2g}^{6} を比較する。対形成を含めるとどちらが有利か。

解答

高スピンのCFSEは 4(−0.4)+2(0.6)=−0.4Δo4(-0.4)+2(0.6)=-0.4\Delta_o で対が1組、低スピンは 6(−0.4)=−2.4Δo6(-0.4)=-2.4\Delta_o で対が3組。低スピンは軌道安定化で 2.0Δo2.0\Delta_o 得るが2組余分な対形成に 2P2P 要するため、Δo>P\Delta_o > P で低スピンが有利となる。

配位子場理論は静電モデルを拡張し、金属–配位子結合を分子軌道で扱う。σ供与とπ供与・逆供与が金属性準位を変え、COなどのπ受容子は分裂を大きくし、π供与子は小さくすることがある。

上級点電荷モデルを超えて

実錯体は球対称なイオン環境ではない。共有結合性、軌道重なり、歪み、スピン軌道相互作用、振電相互作用が状態を混合する。角重なりモデルは各d軌道に配位子固有のσ・π相互作用を割り当て、電子状態計算は軌道性を解析する。

理想的な八面体対称性では、縮退軌道の不均等占有がヤーン・テラー歪みを誘起しうる。典型的なd⁹ Cu(II)では軸方向結合が伸び、対称性が下がってt₂g/eg由来準位がさらに分裂する。電子エネルギー利得と弾性コストの釣り合いが原因である。

電子吸収帯から配位子場分裂を求められるが、単一バンドをΔに対応させるのは単純な八面体d¹イオンで最も妥当である。多電子イオンではTanabe–Sugano図が電子間反発と場の強さを扱う。

参考文献

  • Inorganic Chemistry · C. E. Housecroft, A. G. Sharpe, 2018
  • Ligand Field Theory and Its Applications · B. N. Figgis, M. A. Hitchman, 2000