環境・グリーン・エネルギー化学
CO₂の変換・炭素回収
点源や大気から CO₂ を分離し、貯留・鉱物固定・燃料や材料へ変換する方法と、その熱力学・プロセス・ライフサイクル上の限界を学ぶ。
直観炭素回収と変換:炭素循環を管理する
CO₂ は炭素が完全に酸化した形で、燃焼後の「灰」にたとえられる。放出前に分離すれば排出を減らせるが、燃料や材料への変換は、製品が長寿命であるか再回収されない限り、炭素を一時的にしか貯蔵しない。
学校基礎化学:吸収と放出
石灰水の試験は可逆的な捕集を示す。二酸化炭素が水酸化カルシウム溶液を白濁させ、固体の炭酸カルシウムを生じる。工業では石灰水への単純な吹き込みではなく、選択性のある溶媒や固体を使う。
定義: CCS・CCU・CDR
CCS は CO₂ を回収・貯留し、CCU は製品に利用する。二酸化炭素除去(CDR)は大気から正味の CO₂ を取り出し、長期貯留する。発生源での回収が自動的に CDR となるわけではなく、排出源、エネルギー、漏洩、製品寿命で正味効果が決まる。
| 方式 | 原料と原理 | 主な制約 |
|---|---|---|
| 燃焼後 | 希薄な排ガスを溶媒吸収 | 再生熱、腐食 |
| 燃焼前 | 高圧のシフト合成ガス | 燃料処理と統合 |
| 酸素燃焼 | 酸素と再循環排ガスで燃焼 | 空気分離のエネルギー |
| 大気直接回収 | 周囲空気、CO₂ 約 420 ppm | 極めて希薄な原料とエネルギー供給 |
例: 炭素燃焼で生じる CO₂
炭素 12.0 kg を完全燃焼すると CO₂ は何 kg 生じるか。、 g mol⁻¹ とする。
解答
反応は でモル比は 1:1。したがって kg(丸め)。420 ppm の空気からこの量を回収するには膨大な空気量が必要であり、実際の DAC は吸着材接触器と再生を用いる。理論最小値をそのまま設備設計に使うことはできない。
大学回収の熱力学と溶媒化学
燃焼後回収の代表条件は、モノエタノールアミン(MEA)30 質量%水溶液である。第一級アミンは双性イオン中間体を経てカルバメートを生じ、理想化した正味反応では CO₂ 1 分子にアミン 2 分子を要する。実溶液には炭酸水素塩も存在し、化学種は水分、温度、CO₂ 圧力で変わる。従来型 MEA の再生熱は CO₂ 1 t 当たり約 3.5–4 GJ(主に低圧蒸気)であり、先進的なピペラジン混合溶媒や冷却アンモニア法は熱量低減や運転条件の改善を目指す。
| 媒体 | 機構・吸着熱の目安 | トレードオフ |
|---|---|---|
| 水溶液 MEA | 反応吸収、再生熱 3.5–4 GJ/t | 実績あり、腐食と蒸気消費 |
| ゼオライト 13X | 物理吸着、低圧で有効 | 水分の競合が大きい |
| Mg-MOF-74 | 開いた金属サイトで CO₂ 吸着 | 耐湿性と成形性が課題 |
| アミン修飾シリカ | 化学吸着、希薄 CO₂ に有効 | 酸化劣化と再生 |
| CaO、カルシウムルーピング | 炭酸化で約 178 kJ/mol 放出 | 焼成熱と焼結 |
大学平衡・分離仕事・貯留
ヘンリーの法則 は希薄な物理溶解を近似する(25 °C 付近の水中 CO₂ で mol L⁻¹ atm⁻¹)。単純なラングミュア式 は等価サイトへの飽和吸着を表す。いずれも単独では、反応性アミンの化学種、多孔体の不均一性、物質移動限界を表せない。
モル分率 の希薄な理想気体から CO₂ 1 mol を理想分離生成物として取り出す可逆最小仕事は である。298 K では、CO₂ 12% の排ガスで 5.26 kJ mol⁻¹、420 ppm の空気で 19.27 kJ mol⁻¹、質量当たり約 0.12、0.44 GJ/t となる。これは理想熱力学下限であって設備全体の予測値ではない。不完全回収、圧力損失、熱、圧縮、補機のエネルギーも必要である。
例: 理想分離仕事の比較
298 K で、CO₂ 12% の流れと 420 ppm の空気から回収する場合の、CO₂ 1 mol 当たり可逆最小仕事を比較する。
解答
kJ mol⁻¹ とする。 では kJ/mol、 では kJ/mol。空気の場合はモル当たり約 3.7 倍だが、どちらの最小値も実プロセスのエネルギーより大幅に小さい。
例: 年間 100 万 t 規模プラントのリボイラー熱量
プラントが年間 1.0 Mt の CO₂ を排出し、CO₂ 1 t 当たり 3.7 GJ を要する溶媒で 90% を回収する。年間 8000 時間運転として平均熱負荷を見積もる。
解答
回収 CO₂ は t/年で、熱量は GJ/年。8000 h で割ると約 416 GJ/h、すなわち MW(熱)。この蒸気は本来発電に使えるものであり、CO₂ 圧縮の電力も別に要る。
IGCC ではガス化と水性ガスシフトの後に燃焼前回収を行い、高圧の CO₂ 富化合成ガスを得られる。吸着促進シフトは生成と同時に CO₂ を除去し、水素側へ平衡を動かす。酸素燃焼では酸素と再循環排ガスを使い、凝縮後に CO₂ と水に富む排ガスを得るが、空気分離エネルギーが必要である。膜分離は小型化できるものの、透過性と選択性の両立が難しく、多段圧縮やハイブリッド化を要することが多い。
上級大気直接回収と長期貯留
約 420 ppm の DAC は、排ガス設備より一桁以上多い空気を CO₂ 1 t 当たりに処理する。固体アミン接触器とアルカリ液サイクルは異なる方式である。Carbon Engineering の KOH/Ca(OH)₂ サイクルでは CO₂ を炭酸塩として吸収し、CaCO₃ を沈殿させ、焼成して濃縮 CO₂ を放出し CaO を再生する。高温熱と設備統合が重要となる。Climeworks はモジュール型固体吸着材接触器を用いる。報告される総エネルギーはシステム境界で異なり、概ね 5–10 GJ/t CO₂ が広い目安である。可能なら熱と電力を分けて示す。
圧縮 CO₂ は適切な帽岩の下にある深部塩水帯水層へ圧入でき、圧力と漏洩をサイトごとに監視する。鉱物固定では CO₂ をカルシウム・マグネシウムに富む岩石と反応させる。アイスランドの玄武岩を用いる CarbFix は現地での急速な炭酸塩形成を示したが、水需要、揚水、地質が他地域への適用性を左右する。利用製品は短寿命燃料から耐久性のある鉱物・ポリマーまであり、ライフサイクル評価には最終放出も含める。
上級変換化学とプロセス限界
CO₂ は熱力学的に安定であり、還元生成物への変換にはエネルギーと還元剤(通常は低炭素水素または再生可能電力)が要る。サバティエ・メタン化は発熱反応で Ni 触媒を用いる。Cu/ZnO/Al₂O₃ や In₂O₃ 系触媒によるメタノール合成は水生成を伴い、逆水性ガスシフトと競合する。放熱、圧力、平衡、触媒寿命が実用性を左右する。
例: CO₂ 1 t のメタン化に必要な水素
CO₂ 1.00 t を完全にメタン化するときの化学量論的 H₂ 供給量を求める。
解答
CO₂ 1 mol に H₂ 4 mol が必要。 kg(約 184 kg)。52 kWh/kg で製造すると約 9.5 MWh の電力を要し、回収・圧縮・反応熱は含まない。気候効果は再生可能電力とライフサイクル境界で決まる。
電気化学還元では Ag/Au 上で CO、Sn/Bi 上でギ酸塩、Cu 上でエチレンやエタノールなどの多炭素生成物を得られる。ファラデー効率(生成物に使われた電荷の割合)、電流密度、セル電圧、炭素収支、生成物分離を併せて報告する。ガス拡散電極やフローセルは CO₂ 輸送を改善し、膜電極接合体は装置を集約できるが、アルカリ条件では CO₂ が炭酸塩として消費され、膜を横断する炭酸塩が炭素効率を下げる。光化学還元は光誘起電荷分離と選択的触媒を目指すが、効率・安定性・規模は研究課題である。
| 生成物 | E°(V) |
|---|---|
| −0.52 | |
| −0.43 | |
| −0.40 | |
| −0.24 | |
| −0.34 | |
| −0.33 | |
| (HER) | −0.41 |
これらの反応の平衡電位はいずれも水素発生から数百 mV 以内にあり、選択性は熱力学だけでなく、主に速度論と、吸着 CO などの中間体を金属がどれだけ強く結合するかで決まる。Cu は CO を弱すぎも強すぎもなく結合し、C–C 結合を形成できる点で特異である。
例: ファラデー効率とエネルギー効率
CO₂ 電解装置に 100 mA を 1.00 h 流し、ファラデー効率 90% で CO が生成した。(a) 生成する CO は何 mmol、何 mL か(25 °C、1 bar、24.5 L/mol)。(b) の V、セル電圧 3.0 V のとき、CO に対する電気エネルギー効率は。
解答
(a) C。CO に使われた電荷は mmol の電子で、CO は 2 e⁻ 必要なので mmol、すなわち L = 41 mL。(b) 、約 40%。
中性〜アルカリ性電解液では、CO₂ は陰極で生じる水酸化物イオンと反応して炭酸塩になる。CO のような 2 電子生成物では、CO 1 分子ごとに CO₂ がもう 1 分子炭酸塩として消費されるため、供給 CO₂ のうち CO になるのは最大約 50%、エチレンでは約 25% が上限となる。この限界を超えるため、酸性電解液、バイポーラ膜、炭酸塩再生方式が検討されている。
鉱物炭酸化は炭素を安定な炭酸塩として貯蔵する。促進法ではアルカリ廃棄物や反応性ケイ酸塩を用いるが、粉砕、加熱、輸送のコストがかかる。CO₂ はエポキシドと共重合してポリカーボネートやポリオールにもなり、ルイス対触媒は両反応物を活性化できる。化石原料を置換し得るが、正味便益にはライフサイクル評価が必要で、多くのポリマーは廃棄時に CO₂ を放出する。
研究研究最前線:回収率だけでなく正味の気候価値
参考文献
- Amine scrubbing for CO2 capture · G. T. Rochelle, 2009
- What would it take for renewably powered electrosynthesis to displace petrochemical processes? · P. De Luna, C. Hahn, D. Higgins, S. A. Jaffer, T. F. Jaramillo, E. H. Sargent, 2019
- A Process for Capturing CO2 from the Atmosphere · D. W. Keith, G. Holmes, D. St. Angelo, K. Heidel, 2018
- Rapid carbon mineralization for permanent disposal of anthropogenic carbon dioxide emissions · J. M. Matter et al., 2016
- IPCC Special Report on Carbon Dioxide Capture and Storage · B. Metz, O. Davidson, H. de Coninck, M. Loos, L. Meyer (eds.), 2005