物理化学
反応速度・反応次数
濃度変化の速さの測定と、濃度–時間曲線から経験的な反応次数を読み取る方法。
直観直観:分子が消える速さを数える
化学変化は目に見えなくてもその速さは見える。酸素中で線香が燃え上がり、牛乳は数日で傾き、切ったリンゴは数分で褐変する。反応速度とは濃度の変化の速さの記録にすぎない。速度が存在量にどう依存するか(反応次数)は、変化を生じさせる微視的な事象の指紋となる。
学校基礎:速度・速度則・反応次数
定義: 速度と反応次数
反応速度 v は濃度の時間変化を化学量論係数で割ったもの。経験的速度則 v = k[A]^m[B]^n が次数 m、n を定め、全次数 m + n は実験で決め、化学量論係数と一致するとは限らない。0次:量に無関係。1次:比例。2次:二次。
次数ごとに積分すると固有の曲線になる。0次:[A] = [A]₀ − kt は直線で尽きるまで続く。1次:[A] = [A]₀e^(−kt) は指数関数で半減期 t½ = ln 2/k が一定。2次:1/[A] = 1/[A]₀ + kt は双曲線的に減り、低濃度で最も長く残る。
| 次数 | 積分形 | 直線プロット | 半減期 |
|---|---|---|---|
| 0 | [A] = [A]₀ − kt | [A]–t | [A]₀/2k |
| 1 | ln[A] = ln[A]₀ − kt | ln[A]–t | ln 2/k |
| 2 | 1/[A] = 1/[A]₀ + kt | 1/[A]–t | 1/(k[A]₀) |
例: データから次数を見分ける
318 K での N₂O₅ 分解で、濃度は最初の 30 s で 0.50 → 0.25 mol L⁻¹、次の 30 s で 0.25 → 0.125 mol L⁻¹ へ下がる。次数と k を求める。
解答
半減期が初期濃度によらず常に 30 s なのは一次反応の特徴である(t½ = ln 2/k が濃度に無関係)。よって k = ln 2/30 ≈ 0.0231 s⁻¹。
大学大学:衝突から速度則へ
衝突理論は単位体積当たりの衝突数を数え、活性化障壁を越えるためのボルツマン因子で重みづける。反応座標に沿って十分なエネルギーをもつ衝突だけが成功し、立体因子がさらに確率を下げる。素反応では速度則は分子性を映し、二分子素反応なら v = k[A][B] だが、総括反応ではこれは仮説の出発点にすぎない。
次数を求める基本手法は初速度法である。濃度を一つずつ変えて実験を繰り返し、初速度の応答(不変・2倍・4倍)から各次数が直接得られる。孤立法では一成分を除きすべて過剰にし、実質一つの濃度だけが変わる準一次条件を作る。
例: 濃度倍増実験
A + B → 生成物で、[A] を2倍にすると初速度は2倍、[B] を2倍にしても変わらず、両方を2倍にすると2倍になった。速度則と全次数を書く。
解答
速度は [A]¹[B]⁰ = k[A] に比例:A に一次、B に零次、全次数 1。[B] に無関係なことから、B は律速段階に関与しない(または過剰)ことが分かる。
上級発展:速度則が隠すもの
測定された次数は機構の証拠ではあるが証明ではない。次数の分数値は律速段の前の平衡や試薬の解離を示唆し、v = k[A]/(1 + K[B]) のような阻害項は表面サイトや中間体への競合を示す。同じ総括化学量論でも微視的経路は大きく異なりうる。気相の H₂ + I₂ は長く二分子反応と信じられたが、実際には複雑な機構で進む。
参考文献
- Chemical Kinetics · K. J. Laidler, 1987